駄文17

インターネットアンヘルシーメンタル病患者

強くなりたいと酒を飲む弱い私の話

駅から少し離れ街灯も疎らになった大通りの先に、一際明るく佇むコンビニエンスストアが見える。
灯りに吸い寄せられる羽虫の如く、私はフラフラとその明るさに導かれてゆく。
ほんの10分ほど前に別のチェーンのコンビニで買ったストロングゼロの缶を一息に飲み干し、ぐしゃりと潰して入り口横のゴミ箱に放り込む。
冷たい夜風に曝された身体に冷たい液体が満たされる、全てが冷えきった肉体の中で胃の腑だけが少しの熱を感じていた。

 

軽快な入店音と共にガラスの扉が開いてより一層の目映さが私の目を眩ませる。
同時に熱気とも形容できそうな空気が私の身を包む、この居心地の良さに慣れてしまうと再度外に出るのが嫌になりそうで、私は早々に買い物を終えることを決意した。

 

先程と同じストロングゼロ、今度はレモンではなくグレープフルーツの500ml缶を手にしつつ、レジの前のガラスケースを遠目で見る。
何か暖かいものが食べたいという私の思惑を打ち砕くように、普段はオレンジのスポットライトで揚げ物たちを輝かせるホットケースも、水滴に満たされて白くキラキラ光る蒸し器も役目を終え、電気が消されたがらんどうの中身が寂しそうで、明るい店内で一番暗い場所のように感じた。

気がつけば何も残ってない真っ暗な部屋、私がこれから帰る部屋みたいだと自嘲する、まだ酔うには早いはずなのだけれど。

 

売れ残ったお弁当やおにぎり、ブリトーを眺めて、あれも違う、これも違うと迷っていると、目の前に大きなソーセージが飛び込んできた。
シャウエッセン史上最大!」そんな呼び文句の横に「レンジでOK!」の文字を見つけ、思わず手に取った。

ストロングゼロの缶と同じぐらいの長さのソーセージをレジに並べる、私の「あたためお願いします」の言葉にレジの留学生とおぼしき若い外国人男性は少し戸惑っていたようだったが、「開けて大丈夫」と私が言うと恐る恐る封を開け、レンジに掛ける。

 

「オマタセシマシタ」
袋はいらないといった私に丁寧に一つずつ商品が手渡され、左手にストロングゼロ、右手に巨大ソーセージという珍妙な格好で、剣と盾を装備して危険なダンジョンに潜り込む勇者が如く、暗く寒い夜道へと切り進んでいく。

「アリガトウゴザイマシタ」

そんな彼の言葉が私の背中を押す、私は私という物語の主人公なのだ。

 

ソーセージを一齧り、追い掛けるようにストロングゼロをごくりごくりと飲み込む。
あぁ、意外なほど美味しいじゃないか、吐いた息が白くなって夜空へと昇ってゆく。

ソーセージだけをこんなに大切に食べるなんて随分と久々だと思う、今日もまともに食事もしていない私には十分なご馳走だった。


生きてていいことなんて無いけど、死ぬほど悪いことも無いな、そう思いながら私は家までの残り15分ほどの帰り道、恐らく途中にある最後のコンビニでもう1本お酒を買うだろう、などと考えつつソーセージをもう一齧り、またストロングゼロを飲み、また歩き出していく。

着替えて、寝るだけの真っ暗な我が家が私を待っている。