駄文17

インターネットアンヘルシーメンタル病患者

花火の夜に死ねなかった僕らは 1

久しぶりにPCを引っ張り出して書きなぐったらメチャ長エッチ文章になっちゃったし、一話完結にならなかったんだけれど終わらせられんのか。

そして本人が読むかもしれないって文章にセックス書くのメッチャ恥ずかしい気がする。

 

 

 

いつからだろうか、遠いところに電車で向かうとき、ふと今乗っているこの車両が本当に目的地に着くのかどうかが急に不安になってしまう時がある。

車窓から見えていた景色が慣れ親しんだ都会から田舎の街並みに変わり、今は山中の木々を眺めながら、自分はいったいどこに向かっているのかを考える、それは単なる場所の話ではなく、自分の人生に対する問いかけも含んでいた。

 

『心中』

この旅の目的の一つであり、二つの人生の終わりに向かうべく、僕は聞いたこともない路線の電車に揺られて、彼女から聞いた駅名だけを頼りに時折流れる車内のアナウンスを聞き逃さないようにしていた。

いつしか「死にたい」という言葉は僕らにとってとても軽いものになってしまっていたけれど、本当に死ぬ為の旅路に向かう足取りすらも軽くて、それが楽になれるからなのか、それとも彼女に久しぶりに会えるからなのかは、自分でもよく分からなかった。

 

電車を乗り継いで3時間ほど経った頃だろうか、『市川大門』という彼女から聞いていた名前が耳に入り、僕は慌てて電車を降りた。

家を出た時には明るかったはずなのに、市川大門の駅は街灯や建物からの光の無さも相まって真っ暗な世界に包まれていて、ずいぶんと近くに見える山の影や東京ではありえない何もない駅から見える光景を見て、僕はなんだかとんでもない所に来てしまったな、と思っていた。

 

無人駅から出て少し歩く、コンビニすら無い駅の周りは無機質な事務所やシャッターが下りたままの営業しているのかよく分からない商店だけが軒を連ね、「よそ者は歓迎されてはいないのだろうな」と思わせた。

先ほど「もうすぐ着くはず」と送信したLineを開く、返信は無いが既読がついていることを確認して少し安堵する。

振り返ってもう一度暗闇に浮かぶ駅を見る、この場所にまた帰ってくることがあるのだろうか、前を見ると東京では見たことの無かった本当の暗闇が口を開けていた。

 

「お待たせ」

しばらくすると、そう言って、少し息を切らせた彼女の姿が、笑顔が現れた。

思ったよりも元気そうな彼女に、安心していいのかよく分からなくて、僕は曖昧な笑顔を返すことしかできなかった。

 

数ヵ月ぶり、東京で会った時と違って身軽な部屋着に身を包んだ彼女は、年相応、いやそれ以上に幼く見えた。

彼女の顔をじっと見つめる、初めて会った時に抱いた印象と同じく、彼女は猫によく似ていると思う。

何も言わずに見つめている僕に少し困ったように「どうかした?」と聞く彼女に、僕は「何でもないよ」と言いながら彼女の手を取って、暗闇の中へ導かれるように進んでいった。

 

駅からの道のりは誰ともすれ違うことがなく、世界が僕ら二人だけになってしまったみたいで、もしかしたら夢の中に居るのかもしれないと思った。

それもそうだと思う、女子高生、17歳の彼女のことを僕はクラスメートの誰よりも知らないだろうけれど、誰も知らない下着の中まで知っていて、過ごした時間は彼女がパッと顔を思い浮かべられる人の中では最も短いだろうに、僕は彼女と人生を終わらせようとしているのだから。

二人で夜道を歩きながら、僕は一人でそんなことを考えていた。

 

「ここだよ」

彼女はそう言って、歴史を感じさせる大きな木造の家屋の前で止まった。

道すがら、彼女から「家がごちゃごちゃしてるけど驚かないでね」という前置きを聞いていたが、引き戸を開けて目に飛び込んできた光景は僕が想像していたものを遥かに超えるものだった。

家の中は大量のモノで溢れていて、積み重なった段ボールや雑誌で壁が出来ていた。

使われていないであろう家具や家電が乱雑に積まれ、その上にさらに物が積まれて、まるでジブリアニメの世界の様な家自体が様々な不用品で作られているようにすら思え、さっき僕が思っていた現実とは思えない内容よりもずっと非現実的でファンタジーのような世界が広がっていた。

壁にはパンパンに膨らんだビニール袋がいくつもぶら下がっていて、ペットボトルの蓋やレシートなど、僕を含めた多くの人が捨ててしまうであろうものが全て保管されていた。

「お母さん、ものが捨てられない人だから」そう言った彼女の顔は今までに見たことのない表情をしていた。

僕は「これが17歳で心中を考える女の子が住む環境か」と納得した上で、彼女が今までこの環境で生きてきたことを想像してひどく胸が痛くなった。

 

「とりあえず、部屋に行こっか」

言われるまま後を追いかけ、無機物の森の中を進む。

彼女の部屋もまた物に溢れていて、「本当は私の部屋じゃないけれど、勝手に作った」という言葉が部屋を見ただけで分かるぐらいに、物をかき分けて作られたであろう空間に彼女の最低限の生活スペースが拡がっていた。

ベッド、最低限の間隔を開けてこたつ、上に置かれたパソコン、その前にテレビ、そして後は他の場所と同じく、様々な物に溢れた世界がそこにあった。

 

非日常な世界の連続に、僕が持ち合わせているほんの少しの常識もとっくに麻痺をしていたので、一息ついてベッドの上に座る彼女を抱きしめ、そのまま押し倒した。

「するの?」

その驚くと丸くなる目とか、僕が「君とずっとしたかった」と言うと意地悪そうな笑みを浮かべて下から顔を眺める所とか、そういう彼女の可愛さに誰も気がつかなければ良いのになと思って、恋人でもない癖にそんなことを考えてしまう自分が虚しくて、このまま殺してしまえばいいのか、だから僕はここに来たのかもしれないな、そう結論付けて、彼女とずっと一緒に生きたいという不意に浮かんだ気持ちをかき消すことにした。

 

身軽な格好だった彼女を産まれたままの姿にするのは赤子の手を捻るぐらいに容易で、僕は乱暴に自分の服を脱ぎ捨てて、彼女の身体中にキスをして、湿り気を帯びた彼女の秘所を確かめると、ことわりも無く自分の性器を挿入した。

彼女の中を確かめるようにゆっくりと動く、僕にとってセックスは許されるという行為だった。

お互いに全てをさらけ出して、そうでもしないと本当にこの人と一緒に居ていいのかが分からなくて、本来は愛し合うもの同士が行うことの終着点の一つであるはずの性行為が、僕にとってはコミュニケーションのスタートになっていた。

 

僕の身体の下で喘ぐ彼女を見つめる、汗ばんで少し赤らんだ顔がより一層彼女を魅力的にする、その苦しそうにも見える顔が堪らなくて、僕は自分の絶頂が間もなくであることを伝えると思い切り腰を打ちつける。

もっと奥まで、もっと奥まで、そう思って僕は彼女を強く抱きしめ、自分の中身が一滴も残らず彼女に注がれるように深くまで突き刺し、彼女の中に自らの精をぶちまけた。

 

東京で初めて交わった時に「本当に中で出すと思わなかった」と言う彼女に、僕は「妊娠したら一緒に死のうか」と言った、冗談でもあったし、本気でもあった。

どくん、どくんと自分の性器が脈を打ち、彼女に命の素を注ぎ込み、それが彼女を殺そうとしている。

僕らは何も言わずに抱き合ったまま、自分たちの繋がった部分を他人の身体の一部のように見ていた。

僕らは死のうとしてるんだから、いまさら言葉を交わす必要も無かった。

 

僕らはいつだって死にたがっていたから、彼女が「死にたい」と言った時に「生きて欲しい」でも「愛してる」でもなくて、「今度は僕が会いに行くから、一緒に死のうか」としか言うことができなかった。

無責任に「生きよう」ということは彼女への裏切りに思えたし、あの頃の僕には何も無かったからだ。

僕にとってのセックスがコミュニケーションの始まりだとしたら、僕らにとってのセックスはお互いの命を確かめる行為であり、お互いの首に縄を掛けるような行為だった。

「どうやって死ぬか」を話さないまま、僕らは早く「死ぬしかないね」になりたがった。

 

『心中』なんて一人で死ねない弱い人間がすることだ。

だから弱くて仕方がない僕らにぴったりだと思うのだけれど、今の君はどう思うだろうか。

 

市川大門の夜は、もう少し続く。